避難訓練

船にとって一番大事なことは乗員の安全管理である。

外航客船は出航から24時間以内に、すべての乗船者が避難訓練を行うことが国際法によって義務づけられている。
そのため絶対全員参加の企画となる。

部屋番号によって集合する場所に違いはあるがお客さんの方はすることはだいたい一緒である。
しかしクルーは違う。

英語のアナウンスを聞いてお客さんを誘導しなければならない。
それからクルーが避難時の対応を理解できているかどうか確認する船長からの質問がある。

英語で質問されるので英語で返さないといけないということと、避難器具の場所や数量が英語で書かれた分厚い書類を読んで理解しないといけないという言葉の壁がある。

避難誘導の書類は乗船前に読んで覚えておいてと渡されたが英検三級しか理解力がなかった私は大変苦労したのを覚えている。

しかしそれ以上に色々とやっかいに感じたのは、お客さんの参加したくないという不満を抑えることだった。

この船のお客さんの年齢層はざっくり2つに分かれる。

比較的自由な時間が効き安く世界一周したいという10代から20代と仕事も落ち着いた定年退職して時間もお金にも余裕が出てきた50代から60代が多い。

彼らのうち避難訓練を嫌がるのは1020代の若い層である。

だいたい彼らの言い分はこうだ「お金を払っているのになんで全員強制参加しないといけないのか」と真面目にこちらが誘導しているのに駄々をこねる。

実際避難しないといけないことになったら船にあるものだけを頼りにしないといけない。

乗務員はお客さんの命を守らなければいけない義務はあるが、人間危機に直面した時どんな行動をとるか分からない。

結局自分の命は自分で守る以外の安全な方法はないのになあと思う。
こんな意味をなさない場所で反骨精神を見せないでほしい。

続く